『易経』は現在の本質と未来の潜在的可能性を理解させてくれるだけでなく、
自然・社会・個人における全的な変換を実行する可能性をひらいてもくれるものなのです。
――【シンクロニシティ】(F・D・ピート[著]/管啓次郎[訳])
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※[]内で括られている文字は、“偏とつくり”を表しています。例えば[金令]は、「鈴」の字になります。
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1.乾為天(けんいてん)<本質化と秩序の再構築・運命投影者>
乾とは、能動の意。積極性。原因。反射率100%のデータバンク(情報や集積体)。宇宙意識。
「乾の時は、大いに通じる。貞正(正しき道を守る姿勢)であれば良い。」
2.坤為地(こんいち)<献身と順応・心と体を裏側から支える>
坤とは、受動の意。消極性。条件。乾の創造性を刺激とし、新たな命を保養する器。潜在意識。
「坤の時は、大いに通じる。牝馬(二爻変)のように貞正であれば良い。君子(賢明な者:自分自身の優れた心の象徴)が進もうとする場合、先陣を切って行こうとすると反って道に迷うことになるが、一歩引いて従って行けば、主人(良き指導者や先達)を得て道を誤ることはない。西南方面(坤:広々とした大地で陰位)に行けば仲間と支援が得られ、東北方面(艮:険しい山々で陽位)に行けば仲間は失うが、その時はそれでも良い。貞正で従順、心安らかにしていれば吉。」
3.水雷屯(すいらいちゅん)<情報と経験の不足・良き協力者を得よ>
屯とは、物事の生じ始めの意。草創期の苦労と受難を表す。ありのままに人を見、時流を読め。
「屯の時は、大いに通じる。貞正を守っていれば良い。軽率に行動しないように。適材適所に人材を配置し、周囲の賛同と協力を求めるが良い。」
4.山水蒙(さんすいもう)<目標を見つけよ・指導者の助言が必要>
蒙とは、無知蒙昧の意。個性と人権の保護。勇気を持って、実力と責任能力を身に付けよ。
「蒙の時は、通じる。教える者(親や先生や先輩など)が学ぶ者(子供や生徒や部下など)を求めるのではなく、学ぶ者が自ら教えを請い求めるのが本来の教育の姿である。初筮(一回目の占筮)に対しては、天は正しい答えを告げるが、気に入らないと言って何度も占っても、その疑心によって正しい答えが告げられない。貞正にして行うことが良い結果をもたらすのだ。」
5.水天需(すいてんじゅ)<待てば海路の日和あり・英気を養え>
需とは、出番待ちの意。よく食べ、よく眠れ。用意周到、準備万端。点検・再確認を忘れずに。
「需の時は、誠心があれば大いに通じる。貞正にしていれば吉。時を待ち機会を得たならば、大川を渡っても良い(大事を行っても良い)。」
6.天水訟(てんすいしょう)<活発な交渉・意見の相違と衝突>
訟とは、訴訟・競争の意。流通。勝敗や売買を巡って、互いに対立・折衝し合う様子を表す。
「訟の時は、自分に誠実な心があっても相手の心が塞がっていて通じない。用心して深入りする前に和解するならば吉。最後まで主張を貫こうとするのは凶。大人(有識者や信頼の置ける人)に相談すること。大川を渡ってはならない(大事を行うべきではない)。」
7.地水師(ちすいし)<集団形成力・賢明な指揮者を立てろ>
師とは、大衆・軍師(戦い)の意。目標達成への強靭な実行力。組織に対する献身性と先導力。
「師(戦争)の時は、貞正であること(節操が無いようではいけない)。実力のある指揮官に率いられるならば吉。咎め(災いや厄介な問題)はない。」
8.水地比(すいちひ)<誠実な信頼関係・互助互恵が鍵>
比とは、親睦の意。他との比較分析。確かな能力と信頼があれば、大事な情報も共有できる。
「比の時は吉。親交を結ぶ際は、占筮して(天意を問うて)大いに末永く貞正を保てば問題はない。しかし、心の不安定な者までも親しもうとしてやって来ることもある。中でも、遅れてくるような者は交わるに交われず孤立するので凶。」
9.風天小畜(ふうてんしょうちく)<引っ掛かりの縁・シンクロニシティ>
小畜とは、小さな気懸りの意。煩雑な情報を最適化せよ。不思議な縁が気づきと発見をもたらす。
「小畜の時は、通じる。厚い雲が立ち込めてはいるが、待ち望む雨はまだ降ってこない。しかし、やがて西の郊外から降り出して来るだろう。」
10.天沢履(てんたくり)<社会の規範に倣う・先人の知恵と経験則>
履とは、実践と礼儀の意。対外活動のための自我育成。個の権利を主張し、利益と欲望を求める。
「虎の尾を履むような危険な状態だが、人に噛み付くことはない。通ることができる。」
11.地天泰(ちてんたい)<泰然自若が大切・安定継続を守る>
泰とは、通暁泰平の意。芯なくば不安と動揺に心惑う。よく状況を把握し、進むべき道を定めよ。
「泰の時は、陰の気が下降し、陽の気が上昇する(陰陽和合)。小人(志の低いつまらない人)は去り、大人(意欲の高い優秀な人)が寄り合う。吉にして通じる。」
12.天地否(てんちひ)<閉塞状況を打開せよ・他者を受容する心が鍵>
否とは、否定の意。余談を許さず頑固一徹。清廉潔白で批判性。四角四面の一辺倒で視野が狭い。
「否の時は、人の道が正しく行われない。たとえ君子(あなた)がどれほど貞正を守っていようとも。今は、大人(志の高い人)が追い出され、つまらない小人(意識の低い人)がのさばっている時だからである。」
13.天火同人(てんかどうじん)<協力関係を結べ・対人関係から学ぶ>
同人とは、目的が同じ仲間の意。趣味や同業の集い。クラブやサークル。因縁の出会いと団結力。
「志を同じくする者を集うには、広々とした野原のような公明正大さが大切で、そうであれば通じる。大川を歩いて渡るような大事を行っても良いが、君子(賢明な者)は貞正を保っていることである。」
14.火天大有(かてんたいゆう)<資本力・溢れる活力と願望実現>
大有とは、大量所有の意。人材も財力も旺盛だが、過信放漫に注意。積極的アピールと宣伝普及。
「大有の時は、大いに通じる。」
15.地山謙(ちざんけん)<謙遜を学べ・能ある鷹は爪を隠す>
謙とは、謙虚の意。実るほど頭を垂れる稲穂の如く、身の程を弁えよ。自覚と失敗の経験を糧に。
「謙虚さがあれば通じる。君子(賢者)は終わりを全うすることができる(雄志や功績が称えられる)。」
16.雷地豫(らいちよ)<プログラム・準備支度の功あり>
豫とは、仕込みの意。予め計画したことを順序良く実行する。運命の実践。将来に対する期待感。
「予の時は、諸侯を動かして進軍しても良い。(未知の領域へ進む決意をし、新しい体験を求めても良い)」
17.沢雷随(たくらいずい)<ペルソナ・自我を捨て臨機応変に>
随とは、随時随行の意。運命の流れに従い、与えられた役割を演じる。献身性と思いやり。福祉。
「随の時は、大いに通じる。臨機応変に人や状況に従い、貞正であれば良い。結果として咎めはない。」
18.山風蠱(さんぷうこ)<バグ発生・エラーを修正せよ>
蠱とは、虫食・腐食の意。貪欲で自堕落。内部腐敗や旧態の弊害を徹底的に排除、更新すべき時。
「蠱の時は、大いに通じる。大川を渡るような大事を行っても良い。甲の日に先立つこと三日(辛の日)に内省して実情を把握し、甲の日に遅れること三日(丁の日)に腐敗を排除し改める。(ここでは蠱を甲(中心つまり現在)と仮定し、その両側三卦の働きとして考えた:即ち、謙(辛)→予(壬)→随(癸)→蠱(甲)→臨(乙)→観(丙)→噬[口盍](丁)という、過去から現在そして未来への連続した流れ)」
19.地沢臨(ちたくりん)<未来志向・次世代の育成に生きろ>
臨とは、希望の意。観念打破。部下や後輩・子供達に夢を与え、未来への扉を開く役割がある。
「臨の時は、大いに通じる。貞正であれば良い。八月に至ると凶がある。(一般に地沢臨は旧十二月である。陰陽消長すれば旧八月は風地観となり、陽気が滅んでいく時なので凶とされる)」
20.風地観(ふうちかん)<静観分析と自省・精神至上主義>
観とは、客観性の意。対等関係や外面的な自分。公共性に富み、芸術や文化を豊かにする資質。
「観の時は、手(心身や内面)を洗い清めることなしに、軽々しく供物を捧げたりはしない(五爻変の君子は、神仏に対する敬虔な態度を忘れて、邪な心で供物を捧げてはならない)。誠心に満ちて厳粛に行うならば、その心は人々に感化し、自然と仰ぎ臨まれるようになるだろう。」
21.火雷噬[口盍](からいぜいこう)<障害の除去・妥協を排す>
噬[口盍]とは、噛み砕くの意。理想実現と完遂への意志を持ち、軽佻浮薄を戒める。真剣な態度。
「噬[口盍]の時は、通じる。罪人に対しては刑罰を施行し、障害を取り除くが良い。」
22.山火賁(さんかひ)<虚飾と理性の育成・内実を整えよ>
賁とは、装飾・化粧の意。見映え。周囲に自分を強く印象付けたい心理。羨望と賞賛の的を狙う人。
「賁の時は、通じる。少しのこと(やり過ぎない程度)であれば、行っても良い。」
23.山地剥(さんちはく)<プライド崩壊・慢心と独断への戒め>
剥とは、剥落の意。データ喪失。バックアップを心がけよ。策略や上手い話に注意。新環境や異国。
「剥の時は、進んで事をなすべきではない。」
24.地雷復(ちらいふく)<初志回顧(リカバリー)・本分を問い直せ>
復とは、初期化の意。本来の個性と秩序を取り戻すために価値観を再構成。過去の傷をリセット。
「復の時は、通じる。出処進退に障害はない。これから仲間(陽)が集まってくるのは天理(消長の理)であるから問題はない。陽の道(正しい道)に戻ることだ。その往来の周期は七日である。今は陽が長じる時なので、進んで利がある。」
25.天雷无妄(てんらいむもう)<ありのままに生きる・初期状態>
无妄とは、虚偽を無くすの意。本質。思惑や作為を離れた自然体。必要最低限。乾の資質の反映。
「无妄の時は、大いに通じる。貞正であれば良い。動機が不純であったり偽りの気持ちであれば、その行動には災いがある。進んで事を行うような時ではない。自然に坦々と今するべきことをする他ない。」
26.山天大畜(さんてんたいちく)<実力養成・内部充実を図れ>
大畜とは、多くの蓄えの意。保存した力の活用。エゴを調整し、修練を重ねて経験を積み上げる。
「大畜の時は、貞正であれば良い。才能を磨いて実力を蓄えたのならば、家に篭って飯を食っているのではなく、世間に打って出るのが吉である。大川を渡っても良い(大事を行っても良い)。」
27.山雷頤(さんらい)<生計と土台の確保・外部から栄養を取り入れる>
頤とは、顎。転じて飲食や養育の意。財源確保や健康維持、人材養成。相互支援。ダウンロード。
「頤の時は、貞正にして吉。何を養うのか、またその目的に適合するもの見定めてから、栄養となる食べ物(必要な情報や知識・技術などの象徴)を自ら正しく求めることである。」
28.沢風大過(たくふうたいか)<支柱の大切さ・責任超過と飽和性>
大過とは、過剰の意。情報過多で判断基準を見失う。メモリ圧迫。足るを知れ。観念風刺と必要性。
「大過の時は、芯となる棟が弱く撓んでいる時である。そのため積極的に柱を修繕することが大切で、そのような大事を行っても良い。」
29.坎為水(かんいすい)<自我への衝撃・自暴自棄に注意>
坎とは、陥るの意。失見当識。断片化による動作や思考の鈍り。自己管理と浄化が必要。隠忍自重。
「険難(大変な苦難)の時にあっても、陰中の陽としての誠の心を持ち続ければ通達できる。挫けずに心の真実を貫き通して進んで行くならば、いつかその志は尊ばれることだろう。」
30.離為火(りいか)<自覚的なアプローチ・知的発見と事態発覚>
離とは、二律背反の意。一得一失。科学技術と精神性の相互関係。電化製品の利便性とその弊害。
「離の時は、貞正にしているのが良く、そのようであれば通じる。陽中の陰として牝牛のような柔順さ(二爻変:陰位陰爻で柔順中正)をもってすれば吉である。」
31.沢山咸(たくざんかん)<直感的認識と共感性・イメージを現実に>
咸とは、感応の意。第一印象。手探り状態。相手の気持ちを察知し、時宜と良心に適った行動を。
「咸の時は、通じる。貞正にしているのが良い。女性を娶るのに吉」
32.雷風恒(らいふうこう)<持続性と倦怠感・夫婦の永遠性>
恒とは、恒常の意。軽挙妄動を慎み、長期的展望を持て。保存や記録。長期記憶。歴史や伝統。
「恒の時は、通じる。咎(問題)はない。貞正であれば良い。進ん物事をなすのが良く、利がある。」
33.天山遯(てんざんとん)<肯定的な生き方への転換・退くも勇気>
遯とは、否運回避の意。身を引く。迫り来る危機や不幸から逃れるため、積極的な転進を決行する。
「遯の時は、通じる。小事ならば貞正を守ることで利がある。(たとえ少人数であっても、正しき者達は安全な所に退避して正の遺産(真理)を残すことが大切である)」
34.雷天大壮(らいてんたいそう)<猪突猛進する単純さ・破壊と創造>
大壮とは、意気盛んの意。一点突破の開拓精神。パワフルだが暴走注意。知情意の調整が大切。
「大壮の時は、貞正であってこそ宜しい。(勢いに過ぎるため)」
35.火地晋(かちしん)<超常的パワー・熱い自己表現衝動>
晋とは、昇り進むの意。開放感や陽気さに溢れ、遊戯性と躍動感がある。心(基盤)の安定が先決。
「晋の時は、国を治める諸侯がその功績の褒美として多くの馬を賜わり、また日中に三度も接見を許された。」
36.地火明夷(ちかめいい)<傷心に耐える・私生活の危機>
明夷とは、明が暗むの意。正論や志望が通らない状況。情報漏洩やスパイ(内部トラブル)に注意。
「明夷の時は、艱難辛苦に耐えて貞正を守るべきである。そのようであれば利がある。」
37.風火家人(ふうかかじん)<プライベートの充実・戸締り用心>
家人とは、ファミリーの意。誓約関係。身内や社内の安全を図って、経済的充足と献身に生きる。
「家人の時は、女性(陰の支えとなる立場の者)が貞節をもって家を治めるのが良い。(民衆が貞節であれば社会が安定し、社会が安定すれば国が安定する、と暗に説いている)」
38.火沢[目癸](かたくけい)<認識の相違・差別と偏見を越えて>
「目癸」とは、識別の意。異なる意見や方針が出て対立する。外面的な批評や観察力に長ける。
「[目癸]の時は、小事を行なうのであれば吉」
39.水山蹇(すいざんけん)<独断専行禁止・有力者の力添えを>
蹇とは、難儀の意。中途挫折。身心の萎縮が進退両難を招く。苦労を共に分かち合う対人関係。
「蹇の時は、西南方位(坤)の平坦な地に向かうのが良く、東北方位(艮)の険しい山に行くのは良くない。大人(有識者や信頼の置ける相手)に相談することだ。貞正にしているのが吉。」
40.雷水解(らいすいかい)<夢の実現・苦悩からの解放>
解とは、解放の意。疑いの追及と解消。停滞状況を打開する新たな創造。集団形成力と系譜性。
「解の時は、西南(坤)の平安な地に進むのが良い。もし全ての困難を解決し、やり残したことがなければ元の安静の地に戻って良い。しかし、まだ解決すべきことが残っているならば速やかに処置するようにすれば吉。」
41.山沢損(さんたくそん)<相手の喜びのために・利他精神>
損とは、サービスの意。苦労や損害を甘受しつつ、恩を売る。損して徳取れ。律儀な実務能力。
「損の時は、誠があれば大いに吉にして咎めはない。正しい道を守って進めば利がある。祭祀を行うのに何を用いるべきか。(本当の真心があるのならば)質素な二つの竹皿を供えるだけでも立派に祀ることができる。」
42.風雷益(ふうらいえき)<相互利益が大切・利潤独占は厳禁>
益とは、増益の意。報恩報徳の潤い。高い倫理観と実際性を支えとし、常に学びの精神を持て。
「益の時は、進んで行動するのに良い。大川を渡るような大事を行っても問題はない。」
43.沢天夬(たくてんかい)<メスを入れる・悪しき社会制度の見直し>
夬とは、決断の意。秩序を取り戻すため、邪魔者や不届き者を監査し、斬捨てる。典型的人物。
「夬の時は、もし朝廷(ここでは独裁者)の面前で彼の罪を明らかにして、誠意を尽くして人々に呼びかけたとしても、それは危険である。そこで討伐体制を固めるために先ず各領地を治め、その中から兵を募って決行の声を上げることだ。小人を決し去るにしても、感情的になって独断で決行したり、周囲の理解や協力もなく安直に武力に恃む(争乱を起こす)ことは良くない。まず自領を整え、仲間の士気を高めなければならない。」
44.天風[女后](てんぷうこう)<奇遇な出会いと誘惑・願望実現欲求>
[女后]とは、色恋の意。情動の再生。潜在的な願望に遭遇するが、軽率に走ると失敗しやすい。
「[女后]の時は、女性が勝ち気で積極的である。正しき道に悖るため、この女性を娶ってはいけない。」
45.沢地萃(たくちすい)<情報伝達・自分の居場所を見出す>
萃とは、集まるの意。大衆に役立つ知識や技術を日常に浸透させる。研究の実用化と競争原理。
「萃の時は、通じる。王が宗廟にて祖先の祭祀を行う。大人(有識者や信頼できる人)に相談すれば利がある。貞正にしていれば良い。牛や豚などの生贄を用いて祭祀を行っても吉。進んで事を行うに良く、利がある。」
46.地風升(ちふうしょう)<向上心と競争心・日進月歩の栄え>
升とは、上昇・成長の意。ポジティブで前向きな姿勢。限界の壁を破り、有意義な時を勝ち得る。
「升の時は、大いに通じる。有識者や信頼できる人に相談することだ。何も思い煩うことはない。南(理想や希望)に向かって進めば吉である。」
47.沢水困(たくすいこん)<困難の克服・試練を越えてゆけ>
困とは、試練の意。困難に立ち向かう強い精神力と、他者の苦しみを理解する優しさを備えよ。
「困の時は、通じる。貞正であるべき。大人(有徳の者・有識者)は困難に耐えるので吉、問題はない。今は、いくら訴えても信じて貰えないので、黙々と自分の信じる道を進む他ない。」
48.水風井(すいふうせい)<長期的展望と耐久力・体験の共有>
井とは、井戸の意。伝統や集団心理に根ざした共有体験。心の奥底に流れる信念を見つめ直す。
「井の時は、人々が村を移動しようとも、井戸の場所が変わるわけでもなく、水が涸れることも、溢れ出ることもない。また、往来する人の誰もがその恩恵を受ける。しかし、井戸のつるべの縄がほとんど水面に届きそうなのに足りないとか、つるべが破れていて水が漏れて汲めないようでは凶である。」
49.沢火革(たくかかく)<旧弊の打破と革新・冒険的な挑戦>
革とは、改革の意。危険や犠牲を恐れずに、新しい可能性に賭ける姿勢。状況の刷新に挑む。
「革の時は、機が熟した時に改めることで初めて信頼が得られる。大いに通じるから貞正であること。(時宜に適っていれば)改革における後悔はなくなる。」
50.火風鼎(かふうてい)<関係の構築・受容性と応用力>
鼎とは、物を取り混ぜるの意。発展力。様々な意見や風刺に耳を傾け、真理・安定・絆を確立する。
「鼎の時は、大いに吉であり、通じる。」
51.震為雷(しんいらい)<感情の制御・荒々しい衝動の発散>
震とは、変動の意。インパクト。欲望に導かれた反抗心。制止できない状況。リラックスへの希求。
「震の時は、通じる。雷が鳴り響くと驚いてびくびくするが、静まると安心して笑い声が起こる。雷は百里四方に鳴り響き人々を驚かすが、祭りの最中にいる人は、驚いてさじや祭酒などを落としたりはしない。」
52.艮為山(ごんいざん)<堅実無比な生活・基礎を固めよ>
艮とは、静なる動の意。大胆な行動で転換したら、後は心と生活の安定のために静を守れ。
「人体の中で動かない背中(我欲の無い場所の象徴)に止まる。止まるところに止まっていれば、私利私欲に惑わされることはなく、他人の家や庭に行って人をじろじろ見たり物色するような妄動もしない。私欲に流されず落ち着いていれば、問題はない。」
53.風山漸(ふうざんぜん)<大器晩成・一段一段、踏みしめて>
漸とは、着実な進展の意。自立を目指して腕を磨き、切磋琢磨すれば気運を得て晩成する。
「漸の時は、女性が正しい順序を守って結婚するならば吉。貞正であれば良い。」
54.雷沢帰妹(らいたくきまい)<ロマンスと劇的成功・魅力の演出>
帰妹とは、嫁ぎの意。官能性や活力を武器に、充実した楽しい人生を掴み取ろうとする姿勢。
「帰妹の時は、女性から積極的に押しかけていっては凶。正しい順序でないから良くない。」
55.雷火豊(らいかほう)<盛者必衰の理・実行力と責任感が鍵>
豊とは、盛大の意。威厳ある知恵や技術を現実に役立てる試み。頼れる組織や環境への依存。
「豊の時は、通じる。王なる者が到達した境地である。心配することはない。中天に昇った太陽が万物を照らすように、公明正大に力を用いて行動するが良い。」
56.火山旅(かざんりょ)<先見的独歩・異国の知識の探究>
旅とは、一人旅の意。能力形成。危機を察知して新環境を探す。先鋭的な情報の追究と伝達。
「旅の時は、小事ならば通じる。旅先で貞正にしていれば吉」
57.巽為風(そんいふう)<フリーエージェント・新情報の吹流し>
巽とは、彷徨う風の意。自由と虚無。縦横無尽に次々と移ろう性質。一過性。坤の資質の反映。
「巽の時は、小事ならば通じる。進むことができる。大人(有識者や信頼の置ける人)に相談すると良い。」
58.兌為沢(だいたく)<喜びの具体化・場を盛り上げる快活さ>
兌とは、喜悦の意。説得力と営業的な才能(能弁さ)があり、物質性と実際的な満足を求める。
「兌の時は、通じる。貞正を守っていれば利がある。」
59.風水渙(ふうすいかん)<空気を読む才能・プラス志向の楽天家>
渙とは、吹き散らす意。悩み解消。鬱積した気持ちを晴らし、肯定的に進む。散財・離散を防げ。
「渙の時は、通じる。王が宗廟にて祖先を祀る。大事を行っても良いが、貞正であること。」
60.水沢節(すいたくせつ)<点検調節・時宜に従い未来を察知せよ>
節とは、節度の意。規律や区切り。摂生・節制。過ぎたるはなお及ばざるが如し。宇宙の摂理。
「節の時は、通じる。程好い節制が正道なのであって、度を越すようであってはいけない。」
61.風沢中孚(ふうたくちゅうふ)<真心と善良さ・信用と誠実を第一に>
中孚とは、誠心の意。自然な健全さ。献身的で調和的だが、現代ではストレスを背負いやすい。
「中孚の時は、豚や魚にまでその真心が伝わるようならば吉(「故事成語:游魚出でて聴く」)。大事を行っても良い。貞生を守って入れば良い。」
62.雷山小過(らいざんしょうか)<嫉妬される実力者・誇示は反感を生む>
小過とは、抜き出るの意。度が過ぎた言動に注意。他者の羨みで傷つく。対人関係でのトラウマ。
「小過の時は、通じる。貞正を守れば良い。小事ならば行き過ぎても仕方ないが、大事の場合は不可。鳥が高い空へ飛び去っても、その鳴声は地上に残る。高みに昇り過ぎると行き場を失うが、地上へと下るならば安らかな場所を得られる。自己の分限を越えない態度であれば大吉。」
63.水火既済(すいかきせい)<純粋な理想主義者・常に自分を磨く努力を>
既済とは、成就の意。徹頭徹尾。論理的で合理的な思考。高度な技能を買われるか、既に用済み。
「既済の時は、通じるが小事に限られる。貞生を守るが良い。最初は吉でも終盤は乱れる。」
64.火水未済(かすいびせい)<約束と使命感・志、未だ果たせず>
未済とは、未完成の意。画竜点睛を欠く。大事な役割を完遂できるか、最後まで気を抜くなかれ。
「未済の時は、通じる。小狐が川をほとんど渡りきる直前で力尽き、その尾を濡らしてしまう。最後の最後で気を緩めて志を貫徹できないのは、良いことでない。」
***卦辞についての参考文献***
「新訂 現代易入門―開 運 法―」(井田成明=著,明治書院=発行)