漸は、漸(ようや)く。やっと・段々と・次第に、というような意味です。遅まきながらも段階に応じて進行する様子。内卦艮の山に外卦巽の木を植えて育てていくイメージ。例えば植樹(植林)活動は、その土地に合った生来の樹木を選ばなければならないし、時間も人手も資金も知識も技術もたくさん必要です。とても一朝一夕にはいかない。さらに、地盤の安定化・防風・防砂・地球環境や生態系の保全などの目的に添ったやり方が求められます。当然、植林後の管理も重要です。でも、人工林は元々あった自然林と全く同じではないから、少なからず問題も出てくるようです。自分達の都合で環境破壊してきたことを反省し、今になってその保護や回復を盛んに呼びかけているわけですが、それには相当の時間と労力を要することになりそうです。
綜卦と裏卦は雷沢帰妹。帰妹は若い女性が嫁ぐという意味の卦です。が、漸とは逆転配置であり順序無視の感が強い卦です。いわゆる逆ナンパの形。女性から男性に交際を申し込む。個人的には「そんなのどっちでもいいじゃないか」とは思うのですが、易では女性が押しかけていくようなことはよくないとされているようです。もっとも、これは男女関係についてのみ説いている卦ではなく、物事の順序や決まり、つまり世間一般的な規則に対しての個々の考え方の違いを述べているものでもあります。漸は確かに正規ルートを辿るので間違いはありませんが、その分、時間も手間もかかります。一方の帰妹は面倒な決まりや段階をすっ飛ばして目的に接近しようとするので、そうした方法が必要な人にとっては都合よく働く場合もあるわけです。
仮に、漸を“メーカー推奨の正規品”とすれば、帰妹は“使えるけど保証の対象外の他製品”という感じ。例えばプリンターのインク。機種に適合していれば純正品よりも安く補充できる利点がありますが、場合によっては質が悪かったり、動作に不具合が起きたり、下手すればインクを零して手や服を汚してしまうかもしれません。でも、そうした長短を分かっていれば上手に活用することができるはずです。その辺りは柔軟に考えていいのではないかと思います。単なる僕の思い込みで語弊があるかもしれませんが、漸は努力を旨とする秀才型で、帰妹は飛び級するような天才型かな、という印象があります。
類似関係は火雷噬[口盍]。屯&晋から19番目の卦。そして3巡目の1。1は陽数として外向性なので、外→内→外と3巡目では外向きの作用をします。10という社会システムに対して9としての同意を示したり、意識的に対応しようとする性質。それは漸のように急がずに一歩一歩進むこともあれば、噬[口盍]のように状況に応じて敏速に対処しなくてはならないこともあります。一つ前の18では物事を制限したり客観的に見ることによって処理しようとしましたが、この19では自覚的なコントロール化に置くための方法として、安心が保証されている手順を踏むか、使えるものを有効利用して意図的に支配する(流れを味方につける)ことになる傾向があります。
補完関係は天火同人、その先のヴィジョンは火天大有です。同人は同じ趣味や目的、または似た性質を持った人達がグループを作るという卦です。「類は友を呼ぶ」というように、自分に近い感じの人と手を携えようとする意志があります。少数でも理解を共にできる仲間が欲しいという心理。漸にはそうした意志はなく、むしろ艮(山)のように大きくて安定した基盤の上に家を構えたいと考えます。同人としてのマニアックさがウケても、その地盤が不安定では漸は安らぎを覚えないのです。しかし、安定を求め続ければ保守に凝り固まり、不安定さから生み出される意外な価値に気がつきにくくなります。逆も同じで、不安定さの中に常に居続けることは精神的にも現実的にも負荷が高いので、反動として安定を求める気持ちが出てきます。
そして、この性質は内的な価値観を高めて、自分の好きな道を追求しながら生活も豊かにしていきたいという大有の精神に結びつきます。社会的にも価値があると認められたいし、物心両面での満足も得たい。でも、漸も大有も実際のところ精神的な価値観よりも財産や立場の安定などの具体的な満足を欲することが多いので、仕事に精を出せば家庭が疎かになったり、そもそも婚期を逃してしまったりで、内心では不満を抱えてしまうこともあるでしょう。そうなると、オーソドックスなやり方ではダメだと考え、裏道とか裏技的な方法を試したり、今までの自分のイメージ(固定観念)を崩して別のアプローチをしてみたくなるでしょう。それが帰妹的なスタイルの始まりです。
<爻意は後日、追加更新します。>