艮(ごん)は丑寅(うしとら)とも解されますが、停止すること、そして曲がり角を象徴します。これまでの流れを止める(行動をセーブする)・次の人が継承する・別の可能性を模索するのいずれかになりやすいです。状況を収束させるために、または転向(方向転換・気分転換)するために必要なことをする、といった状況。止まろうとしてブレーキを踏む(握る)状況とか、カーブを曲がる時のハンドル操作を思い浮かべれば、大体の艮のイメージができるのではないかと思います。
八卦としての艮を考えると、先天八卦では坤(静止状態。乾を運動状態とした対概念)の手前ということから収束または減速(ブレーキ)を意味し、後天八卦では坎(進展のない苦しい日々)から震(門出・始動)へと向かう契機となる状況や心境の変化を意味しています。それらは普段のこだわりやプライドを捨てることかもしれませんし、逆に大切な何かを守ることかもしれません。あるいは何かを明け渡すことかもしれません。なんにせよ、その時々で今は止まるべきなのか、方向転換するべきなのかを判断する必要が出てきます。
しかも艮為山は艮が二つ連なっているわけですから、当然拍車が掛かります。徹底して保守にしがみついたがために時代に取り残されてしまうこともあれば、普段は頑固者気質でも変わるしか道はないとなれば大胆に転換することもあります。凝り固まった頭をほぐして発想を転換したり、流行や最新科学の成果を取り入れてみることで大いに可能性が開ける場合もあるでしょう。また、四角四面の考え方をしていては皆から煙たがられますが、複数の価値観を見聞していくことで、次第に人間が丸くなる人もいるでしょう。
綜卦は震為雷。震は鳴動の意味です。大きな音を鳴り響かせて一帯をどよめかせます。ですが、喚くばかりで実際は大したことないとか、臆病者(ビビリ、チキン野郎)、やせ我慢…というような反語的な意味も含んでいます。その一方で、震は物事を動かすエネルギーの発露として、人の感情や心を触発するような起爆剤の働きも持っています。ニトログリセリンのような感じ。扱いには注意を要しますが、インパクトの強さが鍵となるような場面では有効に働きます。抑止力としてのブレーキが艮ならば、駆動力としてのアクセルが震という関係。上手く使い分けることが大切ですね。
さて、裏卦は兌為沢です。八卦としての兌は乾に一息満たないので、3分の1が欠けた卦とされます。中の二陽を出入りさせる穴(陰)がある、と考えてもいいです。口や鼻で吸った空気が肺へ入り、それが循環して同じ出入り口から出て行く。循環とか入れ替わる(ターンオーバー)というような意味合いもあると思います。兌は悦楽が卦徳なので、例えば「友達との楽しい時間(おしゃべりやショッピング等)」とか「パーティ(宴会)」といった情景。一方の艮はそれとは逆の状態です。「口にチャックをする」と言いますが、上爻がチャックで中の二陰をやたら滅多に表に出さないように封印する、という卦徳(止)。制止する、意識して言動を慎むという意味です。言い換えれば、意識していないと思わぬ失言や失態を曝してしまうおそれがあるから注意していなさい、ということです。
類似関係は風地観。観は広い意味での艮を内蔵しています(※詮卦)。観は観察する。風(外卦巽)が地上(内卦坤)を流れていくことで物の動きを見る。濡らした人差し指を立てたり、草や砂を一つまみ投げて風の動きを読むような状態。空気や気配などの見えないものを見る、肌で感じるという意味が含まれています。囲碁や将棋のように攻守の展開を読む、学問的に未発見の理論を追う、心理や精神世界の法則性を研究するなど。もちろん、現実的な観点としての人や物事の観察・監視・視察という面もあります。類似関係の艮為山は、意識的に自分を止めることによって周りの動きを知るという状態です。震為雷のように周りと一緒になって動揺したり騒いだりしないで、瞑想するかのように心を静めて冷静に対処しようとします。温度差や速度差を利用する性質と言えるかもしれません。
ストップを掛ける、つまり行動を制限する艮為山を補完するのは、心の赴くままに欲を満たそうとする火天大有です。何かを限定して、その中で活動しようとする艮と、憧れを持って可能な限り手に入れようとする大有。性質的には反りが合わないように思えますが、人生はバランスが大切。互いに見習うべき要素を持っていることに気がつく必要があります。制限しすぎれば息苦しくなりますし、強欲に過ぎれば破綻を招きかねません。これは精神と物質という対比でも同じことです。どちらに偏っても人生は上手く回転してくれないので、それぞれの人にとっての程よい湯加減が求められてきます。そして、その指標となるのが地山謙だと考えると良いと思います。謙は自分の人生に対して自覚的に向き合う卦。真面目に取り組むことで、考え方や生き方を補正および調整するように促しています。
※詮卦(せんか)
初二、三四、五上の各二爻をワンセットで考えた時に、例えば大成卦の観は小成卦の艮を秘めていると見る占法。大きな絵画を少し距離を置いて見たら、全体の形が良く見えるというのと似ています。これと同様に、地沢臨も全体として小成卦の震を形作っています。他には、天山遯は巽を、雷天大壮は兌を、風沢中孚は離を、雷山小過は坎を、また卦は一緒ですが、乾為天は乾を、坤為地は坤を詮卦に持っています。僕の場合、これらは得卦した際にピンと来れば考えに含めますが、特徴を捉えた一種の格のようなものなので、いつも見ているわけではありません。
<爻意は後日、追加更新します。>