*火風鼎 / The Caldron


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50.火風鼎

鼎(てい:訓読みは「かなえ」)は、取っ手(耳)の付いた三本脚の器のこと。内卦巽の木が燃えることで鍋を煮立てる様を表した卦です。鍋料理では色々な具材を混ぜて一緒に煮込みますが、そのように様々な考え方をする人々が話し合っている状況がイメージされます。なお、混ぜたり組み合わせたりするものは人に限りません。物や情報、知識(アイデア)など何でもいいのです。新しいものを生み出すために、今あるものに別の素材を加えるという方法。それは料理における調味料のようなものです。入れる内容や量を間違えるとトンデモナイことになる可能性もありますが、破綻しない程度ならば、それはそれで面白い結果となるでしょう。

実生活では、慣れない環境の中で仕事をしたり、目新しい人達と意見を交える状況になりやすく、初めは戸惑いを覚えたり、マナーが分からずに失態をさらしてしまうかもしれません。異質な雰囲気に呑まれて、いつもの自分らしさを失ってしまうケースもあるでしょう。そうならないためには、いきなりしゃしゃり出て自説を展開するようなマネは避け、しばらく様子見をして場の空気を読んでから関わっていくのが得策です。初めは遠慮がちに丁寧な口調で。打ち解けてきたら段々と話の幅を広げてゆくという風に、無理のない範囲で少しずつ心を通い合わせるようにしましょう。唐突に相手の懐に飛び込もうとすれば逆に敬遠されたり、何でも受け容れようとすれば、相手の抱えている面倒事に自分も巻き込まれてしまう恐れがあります。

綜卦は沢火革。革は改めるの意味。環境や状況の改善・刷新を象徴する卦です。「大人虎変」(九五)とか「君子豹変」(上六)という有名な言葉もここから来ています。人によっては世直しのような急激な革命運動を想像されることもありますが、基本的な性質としては地味です。普段は出しゃばらずに地道にやるべきことをこなす人が多いでしょう。しかし、主張すべきことはきちんと伝えたり、話し合おうとします。使いにくい点や改善が必要だと思うことに対しては、積極的に関与して直そうとするはずです。一方の鼎は、革とは視点が反転しています。既に改革された後の状況を示しており、新規の環境内でのスタッフとの関係構築や役割分担を決めるような時に当たっています。別の職場に転属して、以前から働いている人達と上手くやっていくことを当面の目標にしているような状態です。

裏卦は水雷屯。屯は乾坤という父母から生まれた赤ちゃんの卦。いわば新生児です。これが山水蒙になると児童という感じですが、まだそこまでの自我は芽生えていません。産みの苦しみと言われるように、とにもかくにもこれから、という時です。屯と鼎の共通点は新しい状況での関係の構築ですが、屯の場合、始動したばかりで元気はあってもエネルギーのはけ口が定まっておらず、出端を挫かれることが多いかもしれません。ちなみに、屯は既済と補完関係にあり、さらに未済のヴィジョンになっているので、“終わりでもあり、始まりでもある”という様相も時々見られます。

類似関係は山風蠱。ともに屯&晋から16番目で2巡目の7。7は陽数で外向きのエネルギーですが、2巡目で性質が反転しています。外から入り込んできた刺激によって内部は風が吹き荒れるようにかき回され、時に傷つきます。その結果、これまでの自分のスタイルを維持できなくなって困惑しがちです。保守的傾向のある人ほど変更されることに嫌気を覚えるので、かなり動揺してしまう事態も起こり得ます。それでもこの異質な影響に慣れていくことで、次第に新しい自分の一面を見出したり、人間関係の幅が広がって面白い経験ができるはずです。

とはいえ、今は新旧やネガティブ&ポジティブが交錯するような時なので、すぐには順応できない上に、せっかく体で覚えたことも台無しになってしまっているかもしれません。時には、身に付いたやり方がかえって仇となる場合もあるでしょう。そうして互いに振り回し合ったり、思わぬミスして恥をかいたりと精神的なショックを受けることが少なくありません。とにかく現状としては、できる範囲で自分の許容度を上げていくことが大切です。適応できてくれば、当初の苦しみは苦しみとは感じなくなるでしょう。

補完関係は雷地豫で、その先のヴィジョンは沢雷随です。豫は予(あらかじめ)。料理に譬えると仕込みや下準備に相当します。鼎で料理を始める前に道具を揃え、材料を切り、調味料の分量を確認し、調理している片手間には人数分のお皿を準備し、テーブルを拭き…という作業をするのと同じです。そうした手際の良さが発揮されてこそ、美味しい料理をみんなで囲む時間をゆっくり楽しめるというものです。この時、ヴィジョンは随ですから、喜びの場面(外卦兌)を現実にするために意欲を駆り立てます(内卦震)。

<爻意は後日、追加更新します。>


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