*火水未済 / Before Completion


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64.火水未済

64卦最後の卦は火水未済。未済は「まだ終わっていない」、つまり未完成の意味です。パーフェクトじゃないからこそ進化し続けられる。易の車輪は回転し続け、どこまでも前進していきます。でも、そういうと聞こえはいいですが“画竜点睛を欠く”とか“竜頭蛇尾”というように最後の詰めが甘くなることがあるので、“有終の美”を飾りたければ気を引き締めましょう。ついでに書けば、“油断大敵”、“勝って兜の緒を締めよ”、“手を出したなら終いまで”、“乗りかかった舟”等と言いますしね。ただ、「結局、最後まで分からずじまい(謎のまま)だった…」というケースでも「ま、そこが魅力でもあるんだけど」と思うことも。なお、卦のイメージ的には未済が水平線から顔を出す太陽で、既済が水平線下に沈んでいく太陽です。日の出が未済ということで未完の大器、次の展開への兆し――TVドラマの「To Be Continued」(次回に続く)、あるいは既済で本編が終わった後の次回予告や番外編であるかもしれません。

綜卦・裏卦(錯卦)は水火既済。未完成に対する完成。既にコトが成立している状態。逆に言えば、それはあまり面白くありません。それ以上の探究心を発揮する余地がないからです。推理力を働かせることも、未知な要素を解明していく楽しさもない。やることは決まっているし、なるようにしかならない。もちろん、まだ自分の目的を達成してなければそれをやる気に転化できますが、ゴールに辿り着くことを当面の目標にしていた人にとっては、到着してしまった時点で気が抜けたようになってしまいます。一つのエンディングを迎えた時点で、なんとなく熱意とか興味が萎えてしまう状態。一旦クリアしてしまったゲームのようなもので、後はコンプリート(100%達成)を目指してマニアックに追求することくらい。または、結末を知りつつ、そこに至るまでの伏線を楽しむために映画を見返すような感じ。

既済・未済のテーマとして、何かを成し遂げること、または自分の生きた証を残すことは、おそらく誰にとっても一生における最大の課題です。たとえどんな生き方を選択していようと、その人がこれと決めて取り掛かった事柄を仕上げる重要性は計り知れません。もっとも、完成させて世に出したとしても、それが直ぐに評価されるとは限りませんが、いつかその価値に気がついて拾い上げてくれる人が出てくることでしょう。そのためにも、自分の本心に適う分野であることが望ましいです。好きな事を通じて自己表現できれば、より一層、人生が充実するはずです。それは料理のレシピだったり、自分の子供の成長だったり、学問研究だったり、芸術作品だったり、何かの技術の実用化だったり、庭造りだったりと人それぞれです。貴賎や優劣など気にせず、思う存分エネルギーを注ぐべきです。

類似関係は雷天大壮。大壮と未済は屯・晋から30番目で4巡目の3(3→12→21→30)。3は奇(陽)数で能動性、外側へ向かう力です。4巡目では位相が逆になりますが、元の3の性質も残ります。3は、2という枝分かれした可能性のどちらかを選択する、もしくは両方を調停する間に立つことを意味する数字です。どちらにせよ、何かが変わってしまうため元の状態ではいられません。4巡目の2(29)では頭を突っ込んだ外の世界と現状とを突き合わせていましたが、30では待ったなしの岐路に立たされたわけです[※]。この時、大壮では思慮分別よりも先に行動に出てしまいやすく、未済では物事を途中で放り出してしまいがちです。もしそこで衝動に流されずに大切なことに集中することができれば、あるいは最後まで諦めずにやり抜くことができたら、思っていた以上に晴れ晴れしい気分で幕引きができるでしょう。さらに、いらぬ後ろめたさを感じることなく新しいスタートが切れるはずです。

補完関係は自身そのもの、即ち火水未済です。その先のヴィジョンは新しい状況としての水雷屯。これは類似関係の大壮も同様で、大壮の補完は大壮自身で行わなければなりません。「補完関係なのに本卦と同じとはどういうことか」と疑問に思われるかもしれません。これは本卦(自分)自身を主観と客観に分けることで、相対的に照合させるプロセスなのです。新しい次元での屯を迎えるためには、今まで自分が辿ってきた道程での体験を宙ぶらりんにしておかずに、経験のエッセンスとして自身の腹に落とす必要があります。経験則として記録したり、納得できる裏づけを取ったり、書き物をして考えを体系付けたり、意志を込めた結晶(作品)を作ったりして証にすること。何をするかは個々の好みが出ますが、そこで培ったモノが種としての乾であり、次の舞台で活かされる能力および試金石として働くのです。

ところで、自身と同じ卦ということから、時にバイロケーション(「同時両所存在、複所在」)とかドッペルゲンガー(「生きている人間の霊的な生き写し」)的な表れとして出ることがあります。日本語的に言うと「瓜二つ」とか「そっくりさん」というような感じです。容姿を含め自分とよく似た相手・共通点のある人々(同じ誕生日時や故郷、職業を同じくする人など)との縁。ちなみに、ドッペルゲンガーの場合、見てしまったら死期が近いとされて恐れられますが、そいつを否定したり笑いものにすることで危難を逃れられるとも言われています。そのように、今までの自分が属したり信じてきた事柄を皮肉れる(笑い話にできる)くらいにまで自分を切り離せたら、そこで最終的な離陸の準備が整います。こうなると、もう後には退けません。なりたい自分、本当に生きたい人生を具体的にヴィジョン化し、その実現に向けて動き出すべきです。


※30で区切る理由

64卦の内、乾坤坎離の4卦は易卦全体を回転させたりシフトさせる本質的な力に関係するため、他の卦とは少し役割が異質です。このため基本的な構成は60卦となり、陰陽で30卦ずつに分けることができます。つまり屯〜大壮と晋〜未済です。そして30である大壮と未済を経過すると、再び屯および晋としての1へ移行します。もしこの時に何の変化も望まなければ、乾としての新たな創造エネルギーは生み出されず、当然ながら坤としてのレセプター(受け皿)も出番はなくなります。こうなると全体の螺旋的な上昇と下降を司る離と坎も働かないので、目立った転換もないまま以前と同じ階層を回るような状態になってしまいます。

逆に言えば、もし人生に意義のある変化を起こしたければ、人生のターニング・ポイントでクリエイティブな選択をすることです。そうすれば創造的な意志という種(乾為天:自分がどう生きたいかというイメージを実現するための力)が、現実の背景を支える土壌(坤為地:集団的無意識や潜在意識、表現の場)に蒔かれます。続いて比喩的に言えば、それに加えて水(坎為水:感情や心理の働きかけ、強く成長するための試練、魂を込める作業)と光(離為火:的確な知識や判断、有用な技術、熱意)が与えられることで発芽し、成長し、花を咲かせ、実を付けてゆくようになります。

<爻意は後日、追加更新します。>


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